屋久島研究合宿(2010年11月12〜15日/東樹宏和)

もっとほかの白眉研究者たちとじっくり話したい。時間を気にすることなく、思う存分に議論を闘わせたい。「白眉」でなら、何か新しいことができるかもしれない。そんな高揚感がどこからともなくわき起こり、「缶詰」(合宿)セミナーをやることになった。どうせでかけるのなら、フィールド系の研究者が実際に働いているところがいいだろう。地域研究が専門の Nate さんの研究拠点のあるラオスという案がでたが、最終的に、私がこれまでフィールドワークを行ってきた屋久島ということになった。

屋久島。黒潮の海に突き出た、花崗岩の島である。中央部の標高は2000m近くに達し、直径がわずか 30km の島であるのに、九州の最高峰を戴いている。暖かい海にとんがり頭を突き出したこの地形のため、降雨が豊富である。低標高域には暖温帯照葉樹林、中標高域には照葉樹と屋久杉の巨木が混交する森がひろがっている。湿潤な気候のため、大きな樹の幹の上で何種類もの別の植物が芽生え、葉を広げている。

私は現在、森林の「地下」を研究の舞台にしている。地下は生態学におけるフロンティアである。そこは「、微生物の世界」であり、まだ名もついていない細菌、原生動物、土壌動物、真菌(キノコやカビの仲間)が複雑なネットワークのなかでかかわりあっている。今回、屋久島内のさまざまな森を案内しながら、森を支える地下の世界について解説した。「土」として認識されているかなりの部分が、実は植物の根と菌糸で構成されている。このことに驚いた白眉研究者も多かったようである。

昼に森を歩き、夕方に町で魚を買い、夜は屋久島流の「のんかた」である。屋久島に滞在する生物学者は、芋焼酎のお湯割りを片手にした飲み語りで、地元の方たちからさまざまなことを教わってきた。うまい酒と魚を囲めば、打ち解けた空気のなかで議論も進む。「分野横断型の研究をどうすすめるか?」、「『心』とは何か?」といった、シラフでは少し気恥ずかしい話題も、「のんかた」なら一人一人が熱く語れる。いつか、「のんかた」 から新しい学問がうまれるかもしれない。

(東樹 宏和・とうじゅ ひろかず)